やっと「悪い円安」という空気

このところ円安が進み、輸入品の値上がりで物価高を招き、「悪い円安」という言葉が人口に膾炙するようになりました。前々からわかっていたことです。私が何年も前から主張していたポイントも、今なら受け入れられやすい環境だと思います。

たとえば、私は4年ほど前の2018年4月18日付ブログで次のように書きました。


アベノミクスはうまく行っているのか? 【円安誘導】

安倍総理は「アベノミクスのおかげで名目GDPが50兆円増えた」という趣旨のことを選挙演説で言ってました。これはおおむね正しいです。

しかし、「名目GDP」が増えたところで、実質賃金は上がっていません。円安誘導で物価が上がっているので、名目賃金が上がっても、実質賃金が下がっています。消費は活性化せず、実質GDPはあまり伸びていません。

また、2016年に内閣府がGDPの算出方法を変え、その結果GDP3%分くらい上方修正されていますが、それもアベノミクスの成果とは無関係です。単なる統計的な操作であり、実際に経済が成長したわけではありません。

それに「円建ての名目GDP」が増えたものの、円安誘導のせいでドル建てのGDPは大幅に減少している点も見逃せません。日本人は購買力という点では貧しくなっています。

たとえば、1ドル80円から1ドル120円に円安が進めば、ドル建てでみた所得は一気に目減りします。2012年の日本のGDPは5.96兆ドルでしたが、2016年には4.93兆ドルです。ドル建てで見たら、日本経済の規模は大幅に縮小しています。

経済学用語でいえば、円安ドル高が進むということは、「交易条件が悪化している」といえます。「交易条件」とは、輸出商品と輸入商品の交換比率のことです。一国の貿易利益(つまり貿易による実質所得の上昇)を示す指標となります。

円が安くなるということは、交易条件が悪化するということです。円が安くなれば、同じ金額でより少ない物しか輸入できなくなるわけです。

輸出を増やすために通貨安へ誘導することを「近隣窮乏化政策」と呼ぶことがあります。円安誘導によって国民の実質所得を減らすことになるので、下手をすれば「自国民窮乏化政策」になりかねません。

たとえば、外国人観光客が増えている最大の理由は、円安のおかげで「日本は物価が安い」ということだと思います。中国や香港、韓国、台湾の観光客が、日本の魅力(伝統文化や自然、ホスピタリティや日本食のおいしさ)に突然目覚めたわけではないと思います。日本という国はずっと前から魅力的でした。

円安が進めば、日本人の海外旅行や海外留学には不利な状況になります。旅行収支が黒字になるのはある意味で当然です。「外国人が日本に旅行しやすくなり、日本人が海外旅行しにくくなる」という政策は、手放しでほめられる政策でしょうか?

「円安」イコール「日本にとってプラス」という発想は、そろそろ考え直す時期かもしれません。少なくとも消費者の目線でいえば、ガソリンや食品が値上がりし、海外旅行がしにくくなり、マイナスの方が大きいです。


私が4年前にブログで書いたことは、ほとんど訂正する必要もなさそうです。

今の物価高や購買力低下は、円安誘導による「自国民窮乏化政策」だと思います。コロナ禍でインバウンド観光客が激減して円安メリットは少なくなり、円安のデメリットがさらにきわ立ちます。

輸出製造業もこれまでの円安でもうかったかもしれませんが、それで日本の国際競争力が高まったという印象はありません。これだけ日本企業の海外進出が増えると円安のメリットは以前より少なくなっていると思います。

円安のメリットとデメリットを比較すれば、デメリットが大きくなっているのは明らかです。そろそろ金融政策を見直す時期に来ています。