バイデン政権で変わる世界:民主主義の再生なるか?

米国大統領選挙はバイデン勝利が確実という情勢になりました。バイデン氏は大統領就任の1日目にパリ協定に復帰すると宣言していました。菅政権が2050年までの脱炭素化を宣言したのも、バイデン政権誕生を見越していたのだと思います。その点では菅総理の判断は正しいです。

バイデン政権誕生の日本と世界への影響は多岐にわたるでしょう。オバマ政権の大統領副補佐官(安全保障担当)だったベン・ローズ氏が、フォーリン・アフェアーズ・レポート(2020年10月号)に投稿した「バイデン政権の課題:米外交の再生には何が必要か」を参考にバイデン政権の外交を考えてみます。

バイデン政権誕生による外交政策への影響として以下が想定されます。

1.米国が伝統的な同盟国重視の外交に転換する。

2.気候変動対策(脱炭素化)が、米国の経済政策および外交戦略として重視される。

3.世界の権威主義的政権(中国、ロシア、ハンガリー、トルコ等)に対してバイデン政権は厳しく対応し、リベラルデモクラシーを尊重する民主主義国との連携を強化する。

4.国際協調路線に復帰して、国際機関との連携を強化する。

5.イランとの核合意復帰など核軍縮に向けて動く。

どれも日本にとってはチャンスです。

ベン・ローズ氏は、かつての米国のように覇権国家のようにふる舞うことはやめるべきと主張します。たとえば、旧来の米国の外交安全保障エスタブリッシュメントのように、腐敗したサウジアラビアのような国をテロ対策のために積極的に支援すべきではないと言います。ベン・ローズ氏は次のように言います。

バイデン政権は、価値を共有する民主的同盟国との関係も修復しなければならない。大統領選に勝利したら1年目に世界の民主主義国の首脳会議を開くという約束を彼は守らなければならない。この会議は、既存の民主主義を再活性化するための各国のコミットメントを特定する一方で、新興民主国家や権威主義国家での民主的制度の構築や人権の確立を支援すべきだ。

トランプ政権とは真逆の外交政策をとることが、バイデン政権に期待されています。さらに同氏は次のように言います。

自由世界を再び結束させるこうした努力は、ロシアに対するアメリカの安全保障懸念と不可分の関係にある。米欧が必要としているのは、民主主義に介入する権威主義国家の試みに対抗できる「抗体」を作る体系的な努力だ。世界の他の民主主義国と足並みを揃えて、欧米諸国の制度を強化し、よりレジリエントな民主主義の模範を示すとともに、民主主義の価値をもっと強く擁護しなければならない。

リベラルデモクラシーの後退は世界的現象であり、その最先端を走っていたのがトランプ大統領の米国だったのかもしれません。ロシアのプーチン、ハンガリーのオルバン、トルコのエルドアンなどの選挙で選ばれた専制政治家たちのなかで、最初に退場したのがトランプ大統領という感じでしょうか。

あとでふり返ると、民主主義(リベラルデモクラシー)の後退の流れがやっと止まったのが2020年11月のトランプ大統領の落選だった、と歴史家に評価されるかもしれません。

地球温暖化を否定する非科学的なトランプ大統領と対照的に、バイデン政権は気候変動が米国の安全保障上の脅威だと認識すべきとベン・ローズ氏は言います。気候変動対策が米国の外交政策の重要テーマとなることが予想されます。

結果的に米国の外交政策は、欧州グリーンディールを推進するEUに近づき、米国と欧州の連携が強化されることになるでしょう。日本は油断していると取り残されます。菅政権があせって脱炭素化を推進すると宣言したのは適切な判断です。

これまでの安倍外交は、トランプ外交に歩調を合わせて、気候変動対策に冷淡でした。菅外交は、安倍外交からの脱却を急速に進めざるを得なくなります。「安倍政治の継承」などと菅総理は言ってきましたが、トランプ後はそんなことは言っていられなくなります。

ベン・ローズ氏は、トランプ後の軍縮に関して次のように言います。

もはや民主党は、軍縮合意を台無しにしたり、核インフラの近代化に1兆ドルを費やしたりするような見当違いの重点政策に異論を唱えることに、消極的になる必要はない。これらの資金には他にもっと良い使い道があるし、新たな核競争などまともな考えではないことを、アメリカ市民に堂々と説くべきだ。

そうあってほしいものです。ベン・ローズ氏は、民主党のなかでも特に進歩的(プログレッシブ)な人なので、日本のリベラルと相性がよいと思います。ぜひバイデン政権でも外交安全保障政策で枢要な地位に就いてほしいものです。ベン・ローズ氏は次のように言います。

アメリカの政権にできることには制限があるが、民主党とアメリカの進歩派たちは、世界の同じ考えの政党ともっと体系的に協力していくべきだろう。選挙権、民主的改革、人種的正義と言った問題に取り組むアメリカの進歩派は、外国のリベラル派との協力を深め、互いに学び、相互に支援しなければならない。

すばらしい。日本のカウンターパートとしてはわが立憲民主党が最適です。次の衆議院選挙が終わって議席数が増え(=政党助成金が増え)たら、ぜひワシントンDCに「立憲民主党 米国代表部」を置き、政党間交流の窓口にするとともに、米国政治とニューヨークの国連本部の動きをフォローすべきだと思います。

ドイツの主要政党はワシントンDCに事務所を構えています。日本の主要政党も同じことをした方がよいと思います。対米追随外交ということではなくて、米国議会や米国世論を日本と世界の利益に資する方向に持っていくために必要な手段です。日本大使館以外のチャンネルを持つことは、野党第一党には特に重要だと思います。

バイデン政権の誕生とともに、民主主義国家同士の連携が重要になります。民主主義、人権、環境保護といった価値観を共有する国と政党は、バイデン政権と協力できます。世界の民主主義を再生し、これ以上の気候変動を抑制するためにも、日本政府も立憲民主党もバイデン政権との協力関係を強化すべきです。バイデン氏の当選を心からうれしく思います。

*ベン・ローズ 「バイデン政権の課題:米外交の再生には何が必要か」フォーリン・アフェアーズ・レポート(日本版)2020年 NO.10