党首討論の限界:「安倍論法」では。。。

昨日(5月30日)1年半ぶりに党首討論が開催され、立憲民主党の枝野幸男代表も初参加でした。しかし、その結果はとてもほめられたものではありませんでした。枝野代表は記者会見で「党首討論はほとんど歴史的意味を終えた」と発言しましたが、その通りかもしれません。

私は野党第一党の国対委員長代理として党首討論開催に向けた交渉を担当してきました。自民党の国対委員長代理と何度も交渉し、衆議院事務局とやり取りし、立憲民主党の参議院側の担当者と調整しと、ずっと準備作業に関わってきました。それだけに残念です。

そもそも党首討論は二大政党制のイギリス議会のまねです。二大政党制のもとで毎週水曜日に45分間の党首討論をやるのであれば、深みのある議論になるかもしれません。しかし、現在、党首討論に参加する資格のある野党は、5党(正確には4党と1会派)です。立憲民主党、国民民主党、日本共産党、日本維新の会、無所属の会の5人の党首で45分の質疑時間を分け合えば、短い議論になってしまいます。

議席配分に比例して審議時間を割り振れば、立憲民主党17分、国民民主党14分、日本共産党6分、日本維新の会5分、無所属の会3分です。とても3分では議論にならないので、無所属の会の岡田克也代表はご辞退されました。その結果、うちの党の枝野さんが19分の質疑時間になりました。しかし、19分でも短いことは短いです。

しかも、安倍総理の無駄が多く、だらだらした話し方では、19分ではとても足りません。安倍総理は、論点をずらし、本質をそらし、質問をはぐらかせ、詳細にわたる余計な情報を出して、逃げの答弁に徹しました。冒頭から安倍総理は「枝野代表とは25年前に同期当選してうんぬんかんぬん・・・」と本質とは無関係なあいさつで時間を浪費しました。朝日新聞が社説で「安倍論法もううんざりだ」と書きましたが、全く同感です。

枝野さんと安倍総理の19分のやり取りのうち、約7分が枝野さんの発言で、約12分が安倍総理の発言でした。安倍総理は、不必要な詳細について長々と語ることで時間を浪費させる戦術を採用し、まんまと本質的な議論から逃げました。ある意味で上手ですが、こういうスタイルで党首討論に臨むなら、党首討論に意味はありません。予算委員会の集中審議で9時から17時まで安倍総理を追及する方が有意義です。

枝野代表が森友・加計学園の問題を取り上げたことを批判するマスコミもありますが、まったく的外れです。これらの問題は安倍総理の政治姿勢そのものを示す本質論です。たとえば、日本経済新聞は「党首討論 外交素通り」というタイトルで記事を書き、「党首討論で外交を取り上げない党首はダメだ」という感じで野党を批判していました。しかし、基本的に外交は政府の専権事項であり、外交について野党が批判しても政府はほとんど取り合いません。外交交渉中の案件について質問しても、相手国に手の内をさらすことになるので、やはり政府は答えません。党首討論では、フワッとした外交論ならともかく、突っ込んだ外交論議は難しいです。日経新聞記者の見識を疑います。

確かに、民主党への政権交代前の党首討論は盛り上がり、中身のある議論ができていたかもしれません。当時の自民党の総理大臣は、真正面から議論していたということもあるかもしれません。また、野党第一党の民主党の議席数が多く、質疑時間が長かったことも、党首討論が盛り上がった理由のひとつかもしれません。いずれにしても今の総理大臣と今の野党乱立状態では、党首討論にはあまり意味がありません。むしろ予算委員会で落ち着いた審議をする方が意味があると思います。昨日の党首討論は、党首討論という制度の限界を示した結果に終わりました。