平成は「世襲総理」の時代

もうすぐ平成が終わります。自民党総裁選は平成最後の総理を決める選挙です。この機会に平成の政治史をふりかえってみたいと思います。平成の30年間の総理大臣は以下の通りです。

第75代    宇野宗佑

第76、77代 海部俊樹

第78代    宮澤喜一(世襲)

第79代    細川護熙(祖父が近衛文麿)

第80代    羽田 孜(世襲)

第81代    村山富市

第82、83代 橋本龍太郎(世襲)

第84代    小渕恵三(世襲)

第85、86代 森 喜朗(祖父と父が町長)

第87~89代 小泉純一郎(世襲)

第90代    安倍晋三(世襲)

第91代    福田康夫(世襲)

第92代    麻生太郎(世襲)

第93代    鳩山由紀夫(世襲)

第94代    菅直人

第95代    野田佳彦

第96~97代 安倍晋三(世襲)

平成に入って総理大臣になった人物は16人です。

そのうち父親が衆議院議員という「純粋世襲」は10人です。16人中で10人ですから、62.5%が世襲議員の総理大臣です。

さらに、お祖父さんが近衛文麿総理という細川総理、お祖父さんとお父さんが町長という森総理がいますが、これを「広義の世襲」という枠組みでとらえれば、16人中で12人が世襲政治家ということもできるでしょう。16人中で12人ということで、広義の世襲政治家の総理は75%といえるかもしれません。

ついでに「自民党の総理」という枠組みで考えれば、非自民の総理が6人いるので(細川総理、羽田総理、村山総理、鳩山総理、菅総理、野田総理)、それを除外すると、平成の自民党総理の10人中で7人が「純粋世襲総理」です。世襲総理が7割という高率です。

平成の30年間の日本を統治した総理大臣は、狭義の世襲では62.5%、広義の世襲では75%が世襲政治家という状況には驚きます。

平成に入ってから政治が劣化したと感じる方も多いと思います。しばしば「小選挙区制が導入されてから、政治家が小粒になった」と主張する人がいますが、根拠はないと思います。サッチャーやチャーチルのようなタフな首相も小選挙区制で選ばれています。

おそらく「世襲議員が増え、世襲議員が出世しやすい構造だから、優秀な政治家が出にくくなった」という方が、多少は根拠があるように感じます。

日本では小選挙区制の結果として世襲議員が増えたということはいえますが、イギリスでは小選挙区制でも世襲議員はほとんどいません。小選挙区制自体に原因があるのではなく、小選挙区制の運用において政党(特に自民党)が世襲が有利になるような運用をしてきた結果ということでしょう。

世襲政治家は日本だけではありませんが、たとえばアメリカのブッシュ大統領父子のケースでも、子よりも、父親の方が優秀だったと思います。

知り合いの政治評論家が「自民党では、総理の息子や娘は3階級特進、大臣の息子や娘は2階級特進」といっていました。「3階級特進」の意味は、当選3回ぶんくらい出世が早いということです。永田町では当選回数が人事などでも重視されますが、総理の息子や娘が当選3回ぶん得しているというのは実感としてわかります。

有力政治家の2代目、3代目の世襲議員のまわりには、「お父さまにお世話になった」という人が自然と集まってきます。派閥の先輩議員なども「君のお父さんにはお世話になった」といって優遇してくれることもたびたびです。

そもそも衆議院選挙の公認をもらうための競争も激しく、個人的な話で恐縮ですが、私が公募で候補者に選ばれたときの倍率は24倍だったと記憶しています。しかも公募の選挙区は、だいたい条件が悪いところが多いです。世襲議員は候補者になる上でも圧倒的に有利です。

そして、世襲議員は、強固な地盤を継承しているため当選しやすいです。世襲議員の方が落選する確率が低く、連続当選しがちな傾向があります。選挙区で知名度を上げるのは本当に大変ですが、世襲議員だと名字が同じだから簡単に知名度が上がります。さらに、親の人脈を引き継いでいるので、政治資金も集めやすいです。

また、世襲議員は、選挙基盤がしっかりしていて地元活動に手間暇をかける必要が少ないです。アメリカの政治学者の研究では、アメリカでも当落線上ギリギリの議員ほど地元選挙区での活動に熱心で、議会活動がおろそかになりがちだということがわかっています。世襲議員のなかには政策の勉強に熱心な人が多いですが、彼らは選挙基盤が強固なので、政策の勉強や視察、海外出張などに時間をさく余裕があります。

以上のような要素があいまって、世襲議員の方が党内の出世のスピードも早い、ということになります。そして世襲議員が順調に出世している様子は、いまの自民党の閣僚名簿を見れば一目瞭然です。自民党議員の大臣は18人いますが、そのうち10人が世襲議員です。割合でいえば、約56%が世襲議員の大臣です。ここでも世襲議員の優位は明らかです。

いま行われている自民党総裁選でも世襲議員が大活躍しています。安倍総理も石破茂さんも世襲議員。立候補を断念した岸田文雄さんも野田聖子さんも世襲議員。次世代の総理候補の小泉進次郎さんも世襲議員。自民党総裁選では「血統」も大切なのかもしれません。

今度の自民党総裁選はどっちが勝っても世襲総理です。平成の終わりを飾る総理も世襲議員ということになります。後世の歴史家は平成政治史をふり返って「世襲総理の時代」と呼ぶかもしれません。

こういう状況を見ていると、自民党の内部は「格差社会」というよりも「階級社会」です。日本社会は、格差社会が高じて階級社会化しつつあります。そのきっかけを作ったのは、自民党の世襲総理たちだったといえるかもしれません。平成とともに、自民党政治も終わらせたいものです。

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