枝野代表の辺野古移設への反対表明

枝野代表は訪米中に講演し、米軍普天間基地の移設にともなう辺野古への基地建設計画について次のように述べました。

辺野古に基地を建設することなく、普天間の返還を実現する。同時に、日米関係や米国の安全保障戦略に悪影響を与えない。困難な三つの条件を同時に成り立たせる解決策の模索を、米国の皆さんとともに取り組んでいきたい。

枝野代表は、日米安保と日米同盟の重要性を認識しつつ、辺野古移設を見直す方針を検討することを表明しました。十分現実的です。枝野さんはプラグマティストなので、空理空論は言いません。「やれる」という手ごたえがあるから、公の場で意思表示したのだと思います。

まず辺野古の米軍新基地建設のメリットとデメリットを秤にかければ、あきらかにデメリットの方が多いと思います。私は以前に米軍普天間基地を視察し、地元自治体関係者や米軍の司令官ほかと意見交換をしたことがあります。やはり普天間基地は危険なので即刻移設すべきだと思います。しかし、移設先は辺野古である必要はありません。沖縄県民がこれだけ反対するなかで、中央政府の意向を押し付ければ、沖縄県民の自己決定権を侵害し、それこそ「沖縄独立運動」が本格化してもおかしくありません。

スコットランドが英国(連合王国)に統合されて300年以上たちますが、スコットランド独立運動はかなりの勢力です。琉球王国が日本国に統合されてまだ200年未満です。日本国の国家統合をまもるためにも、沖縄県民の自己決定権を最大限尊重する必要があります。保守派こそ辺野古新基地建設に反対してもよいはずです。

辺野古移設合意がなされた1996年4月と今では東アジアの軍事情勢も大きく変わりました。最大の変化は中国の台頭と、それにともなう中国の軍拡です。

辺野古移設合意の直前の1995年、台湾独立派の動きに激怒した中国政府が、弾道ミサイル発射実験で台湾の李登輝政権を恫喝しました。いわゆる「台湾海峡危機」の発生です。

それに対し、1996年3月にアメリカ政府は2つの空母機動部隊を台湾近海に派遣して対抗し、中国側の軍事的威圧をはね返しました。航空機80機近くを搭載する米海軍の正規空母1隻は、ヨーロッパの中堅国1国の空軍なみの航空戦力です(たとえば、ベルギー空軍の戦闘機が70機くらいです)。

アメリカの空母機動部隊の航空戦力は圧倒的であり、空母2隻と沖縄の嘉手納基地の空軍力をもってすれば、当時の中国軍は歯が立ちませんでした。中国軍は台湾海峡危機で2隻の空母の前に引き下がらざるを得ませんでした。

空母2隻に屈辱を味あわされた中国は、その後 急速に弾道ミサイルや海軍力の整備に力を入れました。中国の急速な経済成長にともない、中国の軍事費は急増します。中国軍は、いわゆる「接近阻止/領域拒否(Anti-Access/ Area Denial)」戦略を採用し、弾道ミサイル戦力を大幅に増強しました。

中国の対艦ミサイルや対艦弾道弾が発達した今では、アメリカ軍の空母機動部隊といえども、容易に台湾海峡に近づけなくなりました。そのためアメリカの最近の軍事戦略のエア・シー・バトル(AirSea Battle)では、中国軍の弾道ミサイルの攻撃を警戒し、重要な軍事資産(アセット)を中国の近くに置かない方針をとっています。

たとえば、オーストラリア北部のダーウィンに米海兵隊を配置したり、グアムのアンダーセン空軍基地を強化したりといった再配置を進めています。沖縄の基地は、あまりにも中国本土から近く、弾道ミサイルの攻撃に対して脆弱であるため、米軍も貴重な軍事的アセットは沖縄に置きたくないはずです。

弾道ミサイルは、単純にいえば、射程距離が長いほど燃料がよけいに必要です。燃料が重くなれば、弾頭の爆弾搭載量が少なくなり、破壊力も落ちます。つまり射程距離の短いミサイルほど破壊力があり、かつ低コストなのでたくさん調達できます。射程距離が短いミサイルでも攻撃できる辺野古は脆弱です。

辺野古のように中国に近い基地に虎の子のオスプレイを置くことは、海兵隊も望んでいないと思います。知り合いの記者が米国海兵隊の元将官に取材したときに「辺野古は中国本土に近すぎるので、オスプレイを置きたくない」と言っていたそうです。エア・シー・バトル構想に沿って考えれば、当然その通りです。

米海兵隊の特色は、すべての機能をパッケージで持ち、陸海空の部隊を一体運用ができる点です。海兵隊のなかには、陸軍の歩兵部隊と似たようにライフル銃をかついで戦う地上部隊があります。

陸上の海兵隊員を援護爆撃するため、海兵隊航空団所属の戦闘攻撃機部隊があります。米海兵隊の戦闘攻撃機は、山口県の岩国基地に駐留しています。また、海兵隊員は上陸作戦時は海軍の強襲揚陸艦に乗り込みます。海兵隊員が乗りこむ強襲揚陸艦の母港は長崎県の佐世保基地です。

そして海兵隊員が乗るオスプレイ輸送ヘリ部隊の基地を辺野古に建設しようとしているわけです。しかし、オスプレイ部隊を沖縄県に置く必然性はありません。

海兵隊員が乗り込む船が長崎県にいて、海兵隊員を援護する戦闘機が山口県にいるのなら、九州あたりの自衛隊の航空基地を米海兵隊と共用化してオスプレイを配備することには十分な軍事的合理性があります。

新しい基地を建設しなくても、海上自衛隊の航空基地や航空自衛隊の基地を米海兵隊と共同使用すれば、その地域の負担を増やすことにはなりますが、沖縄県にあまりにも偏った米軍基地負担を本土に移すという意味で意義があります。

本土の既存の自衛隊基地の共有化であれば、辺野古基地建設で利益をあげる建設業者等は困るかもしれませんが、新規に大規模な建設工事を行う必要がなくなります。それにより環境への影響も少なくできることでしょう。

そもそも辺野古に新基地を建設するのは、軍事的な理由ではなく、政治的な理由であることは、かつて森本敏防衛大臣も認めていました。森本大臣は率直に「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適の地域だ」と述べました。森本大臣は航空自衛隊出身で軍事のプロです。政治的な理由で辺野古に決めたのなら、政治状況が変わったので、もう一度政治的な理由で辺野古移設を取りやめてもよいはずです。

アメリカのいわゆる「ジャパン・ハンド」の大物のひとりのジョセフ・ナイ教授も、辺野古移設を強行すべきでないといっています。いつもはジャパン・ハンドの言いなりの自民党政治家は、辺野古に関してもナイ教授の言うことを聞いてもよいと思います。

辺野古反対運動が高じて、沖縄県全体の米軍基地反対運動に広がっていくことは、米国政府も望んでいないと思います。外務省と防衛省、そして自民党の政治家たちは、これ以上沖縄県の自己決定権を軽んじ、沖縄県民の反中央感情や反米感情をあおるべきではありません。

日米同盟と日米安保を維持するためにも、辺野古移設を強行すべきではありません。枝野代表のいう、(1)辺野古に基地を建設することなく、(2)普天間の返還を実現しつつ、(3)日米関係と米国の安全保障戦略に悪影響を与えない、という選択肢は十分実現可能です。固定観念と前例踏襲に凝り固まった自民党政権にはできなくても、立憲民主党政権なら可能です。辺野古移設を即刻中止し、それより現実的な計画を検討すべきです。