「国会議員の給料をゼロにしろ」という主張の危うさ

初当選した2005年以来、街で何度も言われるのが「国会議員の給料をゼロにしろ」というご意見です。最近も言われました。政治とカネの問題で辞職した国会議員が何人もいることを考えると、気持ちはわからないでもありません。個人的には「お前の仕事には価値がない」と言われているようで悲しいです。しかし、個人的な感情の問題だけではなく、この主張には大きな問題をはらんでいます。

おそらく背景には「国会議員はカネ目当ての利権屋ばかり」という認識があり、「国会議員の給料がゼロになれば政治がクリーンになるだろう」というロジックの発想だと思います。しかし、その考えは危険です。

もし国会議員の給料がゼロになったら、どんな人が国会議員になるかを考えてみましょう。国会議員としての給料がゼロでも構わない人は、次のような人だと思います。

1)資産家
2)企業経営や弁護士業などで、他に安定した収入を得られる人
3)所属先(業界団体、宗教団体など)が生活の面倒をみてくれる人
4)子育ても住宅ローンも終わって年金を受給している高齢者
5)誰かに養ってもらえる人(例:配偶者の扶養家族)

私のように子育て中の人間は生活もあるので、給料ゼロだと国会議員には絶対なれません。現役世代や若い世代のほとんどの人は国会議員になれないでしょう。

上述の1~5)を要約すると、「お金に余裕がある人」または「特定集団の利益を代表する人」しか国会議員になれないことになります。

その際に「お金に余裕がある人」に関して、1)と2)は富裕層の利害を代表し、4)は高齢者の利害を代表します。国会の構成は、富裕層や高齢者に有利になるでしょう。弁護士や医師、公認会計士などの高所得の専門職も有利になります。また特定団体の利益を代表する国会議員の割合は、今より高くなるでしょう。

果たしてそんな国会が望ましいのでしょうか? 国会議員の給料をゼロにすると、イギリスの貴族院議員みたいな国会議員、あるいは、特定グループの利益代表の国会議員ばかりという、いびつな国会になると思います。

国会議員は広く国民各層を代表する人が選ばれるのが望ましいと思います。男女のバランスは当然のこととして、世代間のバランス、地域間や職種間のバランスもあった方がよいと思います。資産家や弁護士、業界団体の代表ばかりが目立つ国会がよいとは思いません。

以上の私の議論にご納得いただけない方は、マックス・ヴェーバー著「職業としての政治」(岩波文庫)もあわせてお読みいただければ、私の意図するところをご理解いただけると思います。

歯切れのよい「国会議員の給料をゼロにしろ」というわかりやすい主張は意外と危険です。一見正しそうなわかりやすい主張は、「ちょっと待て」と立ち止まって冷静に評価することが大切だと思います。