「リベラル懇話会」という試み

若手・中堅の学者や専門家を中心にした「リベラル懇話会」というグループが昨年設立されました。経済学、法学、社会学、倫理学、教育学、ジェンダー研究、歴史学、地域研究、社会政策学の研究者、法曹、医師など計38名から構成されます。民主党(当時)の岡田代表などの党幹部と意見交換し、民主党に対して提言書を出しています。

その趣旨をホームページから引用すると;

人文社会系の研究者有志により、現在の与党に対して不満・不安を覚える市民にとっての有効な「受け皿」となりうるリベラル政党、健全な議会制民主主義が貫徹されるうえで与党に対する明確な対抗軸を提示しうる野党のあり方を原理的・政策的に考察し、実行可能性も重視した政治・政策パッケージを検討する研究会を設立いたしました。

「厚みのある社会」の理念を明示化する「総論」を最大公約数として、「世論動向」「労働・雇用」「ジェンダー・セクシュアリティ」「社会的包摂/排除」「福祉・障がい」「国際関係」「教育」等の分科会にて、「可能なるリベラル」のための総合的政策パッケージを検討しています。

健全な経済成長をベースとしながら、経済学者アマルティア・センが提唱する人びとの「潜在能力」の自由と平等を実現し、「機会の平等 VS 結果の平等」という硬直した図式を乗り越え、多様かつ他様な人びとの「生き方の幅」を、社会的連帯の維持とともに考察していく――それが私たちの考える「厚みのある社会」「社会的包摂」の基本構想です。」

私もホームページからダウンロードして2016年7月3日付の最新の政策提言書(全部で100ページほど)を読みました。学者の文章らしく、一般の人には硬すぎます。分科会ごとに文章のスタイルも異なり、気づいただけでも2か所ほど誤字を発見したので、完成度はまだ高くありません。しかし、政策的な方向性は一貫していて、説得力があります。「リベラル懇話会」の方向性は、民進党がめざすべき方向性と非常に近いと思いました。

ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センのアプローチを採用している点も好感がもてます。アマルティア・センの著書は、途上国の貧困や開発を学ぶ学生の必読書です。国際社会が一致してめざすべき普遍的価値観となりつつある「人間の安全保障」という概念もアマルティア・センの発明です。私も学生時代にアマルティア・センの本を何冊か読みました。民進党の綱領にアマルティア・センの言葉が入ったらうれしいと個人的に思います。

岡田代表や党幹部が「リベラル懇話会」のような若手の学者グループと対話していることはすばらしいと思います。国会議員や党職員だけで政策を立案してはダメです。国民の声を聴くことはもちろん大切ですが、それだけでもだめです。国民はそれぞれ生業に忙しく、あらゆる政策課題に関して時間をかけて検討しているわけではありません。それぞれの分野の学者や専門家の意見を聴くことはとても大切です。官僚機構内の専門家は、組織防衛の観点からどうしても前例踏襲に傾きがちで、思い切った政策転換に必要なアイデアの供給源としては不適です。学者やシンクタンクの研究員、NPOスタッフ、エコノミスト等の在野の専門家の知見をいかして政策立案を行う必要があります。大胆な政策転換を訴える野党にとっては、在野(=非官僚)の専門家の役割がとても重要です。

1930年代のルーズベルト時代のアメリカ民主党は、学者の政策提言を積極的に取り入れ、多くの若い学者を行政機関で活用しました。ニューディール政策は、当時の新進気鋭の学者たちが支えていたといえます。日本でも佐藤栄作首相や大平正芳首相などは、学者を活用して政策立案にいかしました。伊藤博文なども外国の一流学者に直接教えを乞い、大物政治家なのに謙虚に学ぶ姿勢がありました。学者の提言を積極的かつ謙虚に受け入れる姿勢は、政治家にとって重要だと思います。

安倍総理も学者を活用することもありますが、人文社会系学部に冷淡だったり、憲法学者を無視したりと、「自分に都合のよい学者だけ利用する」というスタンスのように感じます。学者から真摯に学ぶという雰囲気はなさそうです。安倍総理には、専門家に対する敬意や、学問や教養に対する敬意が欠けているように思います(いわゆる「反知性主義」といえるでしょう)。

民進党が政権政党をめざすなら、今のうちからブレーンになりうる学者とのネットワークを構築し、次の選挙の政権公約づくりに協力してもらうべきだと思います。国会の予算委員会などで政府を追求するときも、専門家による最新の研究成果や知見をいかして質問するとよいと思います。安倍総理の特徴としては、専門家の軽視と庶民感覚の欠如の2つがあげられます。民進党は、専門的知見と市民感覚を大切にして、国民の信頼を得る努力をしなければなりません。「リベラル懇話会」のようなグループとの関係を大事にするべきだと思います。

*ご参考:リベラル懇話会 

リベラル懇話会