なぜわざわざ海外に援助をするのか?

先日、市民団体主催の勉強会で「なぜわざわざ海外に援助をするのか?」というテーマで講演しました。地元でいろんな人とお話をしていると、多くの人が「日本は海外援助にお金を出しすぎだ」と思い込んでいるようです。安倍総理が外遊するたびに多額の経済協力を約束するので、そういう印象を持たれるのかもしれません。

しかし、認識と現実のギャップは大きく、日本は政府開発援助(ODA)にあまり予算を投じていません。国民一人当たりにすれば、先進国(OECD加盟国)でODA供与額がもっとも少ない国のひとつです。現実にはたいしてODAにお金をかけていないにもかかわらず、その逆だと誤解されがちです。ODAについての誤解をときほぐしつつ、ODAの必要性や改善の方向性についてお話ししました。以下、講演概要を箇条書きします。

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1.海外援助(国際協力、国際援助)を正当化する理屈

1)政府の公式見解では、①国際社会の平和と安定は国益、②日本のプレゼンスと日本への信頼、③日本に有利な国際環境、④相互依存、⑤地球規模の課題、があげられている。

2)個人的には、①公正で平和な国際社会の実現、②すべての人に最低限の生活と権利を保障すべき(国際的な格差是正)、③困った時はお互いさま(日本もかつて被援助国)、という観点で正当化してよいと思う。利他的にふるまうことが結果的に自らの利益にもなる。

3)主な外交ツールとしては、①政治力・外交力(アジェンダセッティング、調整力、リーダーシップ)、②軍事力(戦力投射能力、軍事援助、武器輸出)、③経済力(貿易、投資、技術移転)、④国際援助(主にODA:人道援助、開発援助)、⑤ソフトパワー(文化・広報)、がある。

軍事力を外交の武器として使わない日本にとっては、国際援助の重要性は高い。しかし、安倍政権になってから武器輸出や軍事援助(フィリピンへの海上自衛隊航空機の貸与)も始まっており、日本外交における軍事の役割が増している(残念ながら)。平和国家の日本は、ODAを重視すべき。

 

2.日本の政府開発援助(ODA)の現状

1)ODA供与額の上位は、①米国:310億ドル、②英国:185億ドル、③ドイツ:179億ドル、④EU:137億ドル、⑤日本:92億ドル、⑥フランス:90億ドル、となっている。

英国の人口と経済規模は日本の約半分だが、英国のODA供与額は日本の約2倍である。英国やドイツがいかにODAに力を入れているかがわかる。

2)1人あたりの政府開発援助(ODA)負担額(OECDのDAC加盟22か国中)を見ると、①ルクセンブルグ:約8万3千円、②ノルウェー:約8万円、③スウェーデン:約5万円と続き、なんと日本は20位の約6,600円(下から3番目)である。

平成28年度ODA予算(外務省分)は約5,500億円であり、一般会計予算約96兆7千億円のわずか0.57%に過ぎない。日本は国際援助に冷淡な国である。しかし、世間では「海外援助を出しすぎだ」と思っている人も多く、認識と現実のギャップが大きい。

安倍総理が外遊のたびに「経済協力」を約束しているが、多くは「援助」ではなく、単なる「融資」や「借款」である。利子をつけて返済する「融資」や「借款」が大半だから「経済協力」と表現している。

 

3.安倍政権後の政府開発援助(ODA)政策の変化:目先の利益を優先

1)かつて日本政府は「人間の安全保障」を訴えて人道援助や貧困対策等に力を入れていた。しかし、安倍政権は、日本企業の海外進出支援や資源確保を優先。自国の権益確保を前面に打ち出す。啓発された国益(国際益)よりも目先の経済的利益を優先。長い目で見れば、“ソフトパワー”の低下につながる。

2)以前の「政府開発援助大綱」を見直し、「開発協力大綱」を閣議決定。途上国の軍隊の民生支援にODAを使えるようにした。民生支援であっても、軍隊への支援は軍事力増強につながりかねない。なぜなら、①予算に色はない、②民生支援の技術も軍事技術と同じ。

 

4.発展途上国の現状

  • 世界人口の9人に1人(約8億人)が栄養不良
  • サハラ以南アフリカでは4人に1人が栄養不良
  • サハラ以南アフリカの5歳未満死亡率:148人/1000人(*日本は4人/1000人)
  • 栄養不良が原因で亡くなる5歳未満の子どもは年間310万人
  • 発展途上国の子どもの3人に1人は発育不全(栄養不良等が影響)
  • トイレなどの基本的な衛生サービスにアクセスできない人口は25億人
  • 安全な水にアクセスできない人口は8億人
  • 1日2米ドルという貧困ライン未満で暮らす人口は22億人
  • 難民が約2千万人、国内避難民が約4千万人

 

5.国際援助は役に立っているのか?

  • 貧困人口:1990年の19億人から 2015年の8億3,600万人へ 半減。
  • 妊産婦の死亡者数は1990年以来、ほぼ半減。
  • 教育、医療、貧困などほとんどの指標で1990年に比べて2015年は改善している。
  • 中国やインド、ブラジル等の発展途上国の経済発展や自助努力による割合も多いが、国際援助が果たした役割も小さくない。
  • 2015年「国連持続可能な開発サミット」の新たな目標:持続可能な開発目標(SDGs)⇒貧困、教育、保健医療、ジェンダー平等、環境等の17の目標を設定。

 

6.日本の援助をどうするか?

1)政府開発援助(ODA)

  • かつての「人間の安全保障」優先へ戻り、短期的で利己的な国益至上主義から脱却。
  • 経済協力中心から社会開発や人道援助中心に重点を移す。より弱い人たちに届く援助。
  • ODAの絶対額が少なすぎるため、徐々に国際目標(GDPの0.7%)に近づける。
  • NGOに対するODAによる支援を強化する。政府機関(JICA)の直営プロジェクトを減らし、NGOや大学、地方自治体、企業等のプロジェクトへの助成を強化する。
  • 日本の経験をいかしたユニークな技術協力や制度づくり支援を行う。公害対策、都市計画、介護や医療のシステムづくり、環境技術。課題先進国として選択肢を示す。
  • 中国や韓国といったODA卒業国への技術協力の仕組み(大学間の研究協力等)を強化する。特に日中韓の3か国の環境協力を強化する(PM2.5、海洋環境汚染等)。
  • ODAの意義について国民に広報・啓発活動を強化し、理解してもらう努力をする。

2)民間の海外援助

  • NGOへの寄付金優遇措置を拡充する。寄付文化を広げるための税制改革。
  • ODA資金によるNGOの助成を拡充する。お金は出しても口は出さない。納税者への説明責任は求めるが、政府の方針を押し付けない。NGOの自主性を尊重。
  • 地方自治体、大学、研究機関、企業などの海外援助を支える仕組みをつくる。JICAが側面からサポート(JICAは「援助実施機関」ではなく「援助促進機関」をめざす)。