トランプ大統領誕生と首相公選制

トランプ大統領誕生。驚きました。アメリカの民主主義を理解できないことが時々あります。私の友人たちの大半は、驚き残念がっています。

ハーバード大学名誉教授で歴史学者の入江昭氏は次のように述べます。

トランプ氏のように無知で教養のない人が大統領になるということは、やはり極端な例とは言えると思います。

民主党の大統領候補だったサンダース上院議員はこう言います。

トランプは私の生涯で、主要政党から浮上した最悪の候補者だと思います。こいつはこの国にとって大きな災難であり、国際面では我が国の恥です。病的な嘘つきの男です。(中略)

特に言語道断で憂慮すべきなのは、トランプの選挙運動の骨子が偏見に基づいているということ-人びとをメキシコ系アメリカ人やムスリムに対して、または女性に対して敵対させようとしている。

トランプ大統領の誕生に懸念を述べる人は多いです。本心から心配している人も多いです。ブッシュ大統領(息子)やオバマ大統領の選出のときには、そういうムードはなかったように記憶しています。ブッシュ大統領に批判的な人は多かったですが、それでもトランプ大統領誕生のときに比べれば、おとなしい批判だったと思います。アメリカの分断が加速しそうです。

議院内閣制の国ではトップ(=首相)を議員が選ぶので、イギリスや日本でトランプ氏のような過激な発言をする首相が誕生することはないでしょう。議員内閣制の国の首相選びは、政界の仲間内の評価が重要になります。近い距離で観察してきた議員たちが、同僚議員の中から首相を選ぶので、とんでもない人は選ばれにくい傾向があります。

しかし、直接投票で大統領を選ぶ国では、思いがけない人が選ばれる可能性が高いのだと思います。トランプ氏やサルコジ氏など、過激な意見が大衆に受けて、大統領に選ばれたということなのかもしれません。私は首相公選制には反対ですが、その思いを強くしました。

アメリカの外交・安全保障政策が大転換する可能性が、どこまであるかわかりません。アメリカは、議会が予算や法案の決定権を握っていて、大統領の力は特に内政では弱いです。外交・安全保障に関しても、予算の裏付けの必要な国防費等については、大統領の権力はかなり制約されます。上下両院の軍事委員会や外交委員会の議員たちが見識を示して、大統領の暴走を抑えられる可能性もあります。

現在、上下両院ともに共和党が多数を占めていて、「ねじれ」はありません。しかし、トランプ氏の主張は、伝統的な共和党主流派の考えとは異なります。共和党内の意見対立が深刻になる可能性があります。トランプ大統領に暴走に対して、共和党主流派と民主党が連携して対抗する可能性もあるでしょう。

また、トランプ氏も大統領に就任したら、突然まわりの有識者の意見を素直に聴くようになるかもしれません(ひょっとすると)。これまでの過激な言動は単なるパフォーマンスで、大統領に就任すると君子豹変して冷静沈着で賢明な大統領になるかもしれません(可能性は皆無ではないでしょう)。

でもやはり、先行き不透明で不安定な状況は生まれるでしょう。トランプ大統領になれば、アメリカ伝統のモンロー主義的(孤立主義的)な方向に回帰しそうです。

アメリカのアジア地域における影響力が低下することは、日本にとっては不利だと思います。力の空白が生まれると見られれば、中国やロシアがアグレッシブな動きを示すかもしれません。中国の海洋進出が一層過激になる可能性もあるでしょう。時代が大きく動きそうな気配です(良い方向への動きではないかもしれません)。日本にも大きな影響を与えそうです。何となく嫌な感じがします。