専門家による政治予測【超予測力2】

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前回ブログの続きです。テトロック教授の先行研究「専門家の政治予測:どれだけ正確か、どうすればそれがわかるのか」という論文の結論は、「専門家の予測はチンパンジーが投げるダーツとだいたい同じ」でした。

研究対象となった「専門家」には、大学教授、シンクタンク研究員、政府機関の専門家、IMF等の国際機関のスタッフが含まれます。しかし、平均すると専門家の予測の確かさはチンパンジーのダーツ並みという衝撃的な結果でした。しかもチンパンジーのダーツよりも低い予測精度の専門家グループもありました。

チンパンジー以下の予測力の人たちは、思想信条を中心に考える傾向が見られるそうです。信念を持つことは大切ですが、予測するときには自らの信念に惑わされないことが大切だそうです。

私なりに解釈すると、信念をもって望ましい未来をめざすのは大切ですが、将来予測にあたっては他者の視点や多様な見方を参考に判断すべきということだと思います。ゴルゴ13のように常に自分自身を客観視するのが、超予測者の条件ということです(*ゴルゴ13を読んだことのない人にはわからない例ですみません)。

さらに前述の研究によると、思想信条に固執して政治予測をする専門家のグループは、「自らの得意分野ほど予測を外しやすい」傾向があるそうです。これは恐るべき事実です。専門家の予測を聞きたいと思うのは自然です。ミャンマーの軍事政権の弾圧について知りたかったら、ふつうはミャンマーの地域研究者や人権問題の専門家に意見を聞くでしょう。

同研究よれば、専門家の予測は信頼できません。もっとも過去に起こった出来事の解説は、専門家が得意とする仕事であり、事後の解説は十分に信用できると思います。

しかし、将来予測に関しては、その道の専門家が、「思想信条に凝り固まった人」か、「そうでない人」かを判断した上で意見を聞く必要があります。むずかしいです。

テレビで時事ネタを解説する人気の専門家や評論家は、たいてい自らの考えに自信を持ち、将来予測にあたってもキッパリと断言します。自信満々に発言するので、信頼できそうに見えます。そういう断定的にものを言う人が、よくテレビに呼ばれます。政治家もそうです。

テトロック教授によるとテレビによく出る経済評論家には次の傾向が見られるそうです。

知名度と正確さには逆相関が見られたのだ。有名な専門家ほど、その予測の正確さは低かった。(中略)
(有名な専門家は)思想信条をエネルギー源に、シンプルで隙のない明快なストーリーを語るので、聴衆は思わず引き込まれる。(中略)
単一の視点に依拠し、他の視点やそこから生じる面倒な疑念や警告サインは一切考慮せず、「しかも」「その上」と自分が正しい理由を積み上げていく。その結果、何かが絶対に起こる、あるいは起こらないと断定する傾向がある。聴衆はこれに満足する。ふつうの人は不確実性を好まない。

日本のワイドショーが自信満々に断言する評論家や政治家を好む理由がよくわかります。しかし、そういう人たちは超予測者にはなれません。超予測者には真逆の姿勢が求められます。

超予測者に求められるのは、知的な謙虚さ、自己批判的な思考、他者の意見や異なる視点に目を向け、自らの意見を変える柔軟性です。自信をもって断言している時点で、超予測者の条件から外れます。不確実性とうまく付き合うことも大切です。

歴史上の人物でもっともすぐれた超予測者のひとりは、ジョン・メイナード・ケインズです。ケインズは経済学者として有名ですが、実は投資家としても優秀でした。ケインズの長期投資は驚異的なリターンを記録し、巨万の富を築いています。

そのケインズが言ったとされるのが次の言葉です(*なお、実際には言っていないそうですが、広く誤解されて広まり、ケインズの言葉と思われています。)。この言葉はケインズの姿勢をよく示しています。

事実が変われば、私は意見を変える。

これも実際のところむずかしいです。権威ある専門家ほどむずかしいでしょう。事実の解釈や定義を操作して、ああでもない、こうでもないと、自らの意見に固執するのがふつうの専門家です。ケインズは、状況が変わると自分の意見を頻繁に変えました。柔軟性に欠ける他の経済学者をケインズはしばしば批判しています。

ケインズは「一貫して一貫性に欠ける」と評されました。ケインズの思考や姿勢の背景には、「自分はもっとうまくやれるはずだ」という信念がありました。「失敗は能力の限界に達した証拠ではなく、真剣に考えてもう一度挑戦してみろというサインだ」と信じていました。

よく「失敗を恐れるな」と言いますが、ケインズは「挑戦、失敗、分析、修正、再挑戦」のサイクルを何度も繰り返し、着実に進歩しました。失敗から学ぶためには、何よりも知的な謙虚さが必要です。思想信条に固執せず、自らを批判的に見る目が必要です。

*長くなったので、さらに続々編へ続く。

*参考文献:フィリップ・E・テトロック、ダン・ガードナー 2016年「超予測力」早川書房

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