立憲民主党

消費税の時限的減税は悪手です。

2022年6月6日
政治の動きと分析

つい先日の5月末まで立憲民主党本部で契約の仕事をしておりました。しかし、いまは何の肩書きもなく、一党員という立場です。立憲民主党の政策に対して自由にものが言える立場になりました。

さっそくですが、立憲民主党が今年の参院選公約に「消費税を時限的に5%へ」を掲げています。これは問題だと思います。経済政策としても、選挙対策としても、悪手だと思います。

立憲民主党の応援団と言ってもよい山口二郎教授(政治学)も2年ほど前に次のようにおっしゃっていました。

時限付きの消費税率引き下げは悪手である。一度下げた税率を再び上げる力を持つ政権は、当分日本には現れない。日本銀行引き受けで国債を出し続けるという実験に国民を巻き込むことは絶対に許されない。減税は福祉サービスや地方財源の削減にシワ寄せされる。

*出典:「週刊東洋経済」のコラム「フォーカス政治」2020年8月1日号

消費税の時限的な減税は、正式にアナウンスされた瞬間、買い控えを引き起こすでしょう。近い将来の消費税減税が確実なら、だれだって高い買い物は控えます。減税決定から減税実施までの間にタイムラグが生じます。その間の数か月(?)は、確実に消費が減少します。そのタイムラグの間の景気は悪化します。

そして減税が時限なので、減税期間中に耐久消費財や自動車、美術品などの高額な買い物をする人が大勢でるでしょう。しかし、お金に余裕がある人しか、高額の買い物はできません。年金生活のお年寄りやひとり親世帯は、減税になっても高額の買い物をする余裕はありません。

しかも、時限の減税が終わった後には、長期にわたる買い控えが起こるでしょう。時限付きの消費税減税は、需要の凸凹をつくります。単なる需要の先食いを生むだけです。

減税中に消費税負担を免れたお金持ちが得をする、という結果に終わります。お金とスペース(倉庫)に余裕のある富裕層は、消耗品等のストックを大量に買い込み、消費税の時限減税の成果を享受できます。結果的に時限の消費税減税により、お金持ちへの所得再分配(逆再配分)が進むでしょう。

消費税の減税は、(1)税収減による借金増、または、(2)社会保障費等の公共支出削減のいずれかにつながります。どちらにしても望ましくありません。

時限の消費税減税よりは、いま困っている人への直接給付の方が効率的です。たとえば、低所得者向けの「給付付き税額控除」を導入して、1年間に支払う消費税相当分の現金を低所得者向けに給付するのがよいと思います。より少ない財源でより社会的インパクトのある政策になるでしょう。その他に就学支援金の拡充や低年金の方への給付も有効です。

少子高齢化が進むなかで、未来の世代の方が経済的に苦しくなります。消費税の減税で借金をたれ流し、未来の世代に借金のツケを回すのは倫理的に問題です。

また、医療費や介護費の費用負担を減らしながら、医療や介護のサービスを維持することはできません。医療や介護のサービス低下を我慢するか、もしくは、税や保険料の引き上げを我慢するか、2つに1つの選択肢です。どちらかを我慢せざるを得ないはずです。

しかし、現在の日本は、医療や介護のサービスの低下を我慢せず、税や保険料の引き上げも我慢せず、借金を増やすことで問題を先送りしています。そろそろ問題の先送りも限界です。

かつて「ムダを削れば、財源は出てくる」と言って失敗したのが民主党政権でした。「ムダを削る」と言っても、何が「ムダ」かの定義は難しいです。一見ムダに見えるものも、危機にあたって重要だとわかることがあります。平時は「ムダ」に見えるものが、危機への「備え」だったとわかることもあります。これまで「ムダ」として保健所の統廃合を続けてきたことが、新型コロナウイルスへの対処能力を低下させました。「ムダの削減」のつもりが、必要なものまで削減していたと言えます。

国家公務員給与(約5兆円)をゼロにしても、防衛費(5兆円超)をゼロにしても、年間の社会保障給付費の120兆円超に比べるとまったく足りません。負担と給付のバランスが悪化しているので、「ムダを削って財源ねん出」は不可能です。

世の中には「いくら国が借金しても問題ない。消費税はゼロにして、借金を増やせばよい」と言う人もいます。しかし、そんな安易な解決策はありません。少なくとも経済学者や財政学者の大半は、そんな楽な解決策はないと考えます。

借金を続けることは、どこかの時点で不可能になります。国債の金利負担で財政が破綻し、国民は塗炭の苦しみを味わうことになるでしょう。財政が破綻すれば、大増税がやってきて、そのうえ社会保障支出は大幅に削減されます。1980~1990年代の発展途上国でしばしば起こったことです。

国家が財政破綻したときに、いちばん苦しむのは低所得者や年金生活者です。弱い立場の人ほど被害を受けます。お金持ちは、金地金や外貨などに投資したり、海外に逃げたりして、ある程度の財産を保全できます。しかし、庶民にはそんな選択肢はありません。

現役世代は働ければ給料をもらえるし、海外に移住するといった選択肢もあるかもしれません。しかし、高齢の退職者は、ハイパーインフレで銀行預金の価値がなくなり、年金は減額されます。高齢者は、財政破綻の悪影響をもっとも直接的に受けます。年金生活者こそ財政破綻を警戒した方がよいでしょう。

たとえば、国民負担率のデータの国際比較をじっくり見ると、減税という選択肢は難しいことがわかります。減税するのであれば、医療費や介護費の自己負担増、年金の大幅カット、国立大学の授業料値上げ等の緊縮財政が避けられません。私は、減税の方が弱者に厳しい結果を招くと思います。

経済危機の時の増税を避けるのは理解できます。コロナ危機の間は、おそらく増税はできません。しかし、せめて減税しないだけの自制心は必要です。経済危機から回復したら、法人税を元の水準に近づけ、所得税と社会保険料の累進性を高め、金融課税や相続税を強化し、炭素税を導入し、税収増を図る必要があります。

医療、介護、障がい者福祉、子育て支援や教育無償化には、どうしても財源が必要です。安心できる社会保障制度と格差の少ない社会をつくるには、安易な減税を主張するのはやめるべきです。むしろセーフティーネットを強化して、格差の少ない社会をつくるために、公平な税制を求める必要があります。見たくない現実を直視することが大切です。

さらに消費税減税の公約は、選挙対策としても効果がありません。この十年ほど消費税減税を訴えた野党は負け続けてきました。世論調査を見ても国民の多数派は必ずしも消費税減税を望んでいません。世論調査を見る限り、多くの有権者は「福祉や教育の財源のためには消費税はやむを得ない」と考えています。国民の多数派が望まない「消費税の時限的減税」を選挙公約の柱に据えるのはあやまりです。

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