スペイン人から見た米国【地政学の思考法】

スペインの元軍人・元情報機関幹部のペドロ・バーニョス氏が書いた「国際社会を支配する地政学の思考法」という本を読みました。スペイン人の書いた本が日本語に翻訳されることは少ない気がしますが、たまたま手に取ってみたら、おもしろそうだったので読むことにしました。

欧州統合軍の防諜(カウンターインテリジェンス)部門のトップを務めたペドロ氏は、言うまでもなくリベラルな平和主義者ではありません。おそろしく冷めた目で世界を見るインテリジェンス・オフィサーです。この本を読んで興味深かったのは、米国の同盟国であるスペインの元軍人・元情報機関員が米国の外交安全保障政策にきわめて批判的な点です。ロシアと米国を等距離で見ている感じがします。

スペインと日本はどちらも米国の同盟国です。超大国の米国と「対等のパートナーシップ」を結んでいる国は世界中どこにもありません。世界中の米国の同盟国は、すべて米国の事実上の「ジュニア・パートナー」です。英国やイスラエルでさえそうだと思います。

経済力でも軍事力でも地政学的重要性でも、米国にとって日本はスペイン以上に重要な同盟国だと思います。それでも超大国と比べて、中堅国(ミドルパワー)という点で日本とスペインは共通点が多いと思います。

そのスペインの元軍人は、想像以上に冷めた目線で米国を見ていることに驚きます。たとえば、こんな記述があります。

そもそも自らは地域的・国際的に十分な影響力や支配力を備えていないと考えている国は、地政学的影響力を得るために他国と連携する。その理由については、プロイセン首相とドイツ首相を歴任したオットー・フォン・ビスマルクの次の言葉が端的に表している。「自分たちだけで祖国も利益も守れると考えて完全に孤立する民族はやがて、他国の影響力に圧倒されて消滅するだろう」。そうした連携が行われると、従属する立場にある国家は、たとえば世界的に見れば中程度の勢力があったとしても、連携した巨大勢力によって自国の利益とまったく関係のない戦闘行為に引き入れられてしまう恐れもある。その結果、守るべき自国の利益など何もない遠隔地に自国の軍隊を派遣しなければならなくなる。

スペインは同盟国の米国につきあって9・11後のイラクに派兵しました。その後、2004年3月11日マドリード列車爆破テロ事件で191人の死者を出しました。そういう背景を考えると、スペイン人としては苦い思いでこの文章を書いたのではないかと思います。

日米同盟は重要ですが、何でもかんでもトランプ大統領の言いなりというのが正しいかどうかは別問題です。冷めた目で自国の利益を追求し、自国の軍隊を安易に海外に派遣しないことが重要だと思います。スペインの元軍人・元情報機関員のように、冷めた目で同盟国を見て、冷めた目で国際情勢を眺めることも必要だと思います。

トランプ大統領に媚びるために、自衛隊の制服組(=現場自衛官)が望んでいない米国製兵器を爆買いしている安倍政権中枢に必要なのは、スペイン人のような「冷めた目」だと思います。購入価格が高価で維持管理費がおそろしく高くつき、かつ、効果が実証されていない兵器を米国から調達するから、いわゆる「兵器ローン」が異常な勢いで増えています。F35の爆買いやイージスアショアの導入で自衛隊はコスパの悪い軍事組織になりつつあります。右のタカ派の人たちも安倍政権の防衛政策には怒った方がいいと思います(ムダな爆買いで防衛力が低下している恐れがあります)。

また、この本には、ニクソン大統領とキッシンジャー補佐官の「マッドマン戦略」とか、フェークニュースの怖さとか、興味深い視点がたくさん出てきます。最新の国際政治の現状を知り、スペイン人の冷めたものの見方を知るには、良い本だと思います。

*ご参考:ペドロ・バーニョス、2019年『国際社会を支配する地政学の思考法』講談社