日本主導でG7からG9(D9)へ

トランプ大統領が、G7にロシア、インド、韓国、オーストラリアを加えて「G11」にしようとしているとの報道がありました。個人的には「まずい」と冷や汗が出そうになりました。

以前から私はG7に韓国、オーストラリアを加え、「G9」あるいは「D9(先進民主主義国9=Democracy 9)」に改編するアイデアを温めてきました。一部の人に口頭で説明した以外はどこでも発表していないので、誰も知らないと思います。トランプ大統領が変なことを言うから、私の構想が邪魔されないか心配です。

私の構想のポイントは「韓国とオーストラリアをG7に加えるべき」という議論を日本の首相が提案することです。オーストラリアも重要ですが、さらに重要なのは「韓国の参加を日本が提案する」点です。

リーマン危機の対処のためにG20が創設され、リーマン危機対策の国際合意の形成に役立ち、一定の成果をあげました。しかし、その後はあまり役に立っている印象がありません。

G20は、G7にプラスして中国、ロシア、インド、ブラジル、インドネシア等のあまりに多様な参加国で、経済の発展段階もバラバラ、民主主義の発展度合いもバラバラ、意思統一も利害の一致も難しいのが現実です。

他方、G7は、90年代後半にロシアが参加して一時的に「G8」になりましたが、その後のウクライナ紛争でロシアが排除され、再びG7に戻っています。G7は「先進民主主義国クラブ」なので、比較的同質的なグループといえます。

もともとは米国、日本、西ドイツ、英国、フランスのG5でスタートしました。その後イタリアが「オレも加えろ」と強引に乗り込んできてG6になり、その後、米国大統領が招待してカナダが加わり、いまのG7となりました。

G7というグループは、東西冷戦下の西側の主要国であり、言い換えると米国の同盟国でした。また、先進工業国であり、民主主義と市場経済の国の集まりでした。民主主義、人権、法の支配といった価値を共有するグループなので、比較的合意形成しやすいグループだといえます。

そのG7にロシアが入りましたが、共産主義を捨てたものの民主主義が定着したとはいえず、経済も先進国のレベルには至らず、他のG7諸国とは価値観は共有できませんでした。そういう意味ではG8は機能不全を起こしやすい構造でした。G8体制は失敗だったと思います。

G7は「先進民主主義国クラブ」として経済と民主主義や人権の成熟度が似ていて、合意形成をしやすいグループだと思います。少なくとも発展途上国が入っているG20より合意形成しやすいでしょう。

韓国とオーストラリアは経済の量と質の両面でG7諸国に見劣りしません。さらに両国には民主的な政府があり、民主主義や人権の感覚を共有できるので、G7に参加する資格があると思います。日本にとって重要な隣国の韓国と、関係が良好なオーストラリアが参加するのはよいことだと思います。

G7で人口と経済規模がいちばん小さいのはカナダです。GDPの世界ランキングを見ると、韓国10位、カナダ11位、オーストラリア14位です。人口で見れば、カナダが約3700万人、韓国が約5100万人、オーストラリアが2500万人です。韓国は十分にG7諸国に匹敵する水準ですし、オーストラリアも有資格だと思います。

トランプ大統領がG7にロシアとインドを加えようとしていますが、そうすると気候変動や人権、民主主義の観点で合意形成が難しくなります。プーチン大統領のロシアが民主的でないのは説明不要です。いまのインドの首相もヒンズー至上主義政党のリーダーであり、イスラム教徒に対する姿勢を批判され、国内の人権問題で問題があります。インドは民主的な制度は整っていますが、民主的な価値観を共有できる度合いでは疑問符が付きます。

また、気候変動や環境保全の議論でも発展途上国型経済のインドやロシアの参加がどういうインパクトがあるのか予想できません。ロシアは地球温暖化に利益を見い出している懸念もあります(ロシアの穀倉地帯が北に広がり、北極海航路が開け、ロシアにとってはプラスかもしれません)。

成熟した経済構造の国であり、かつ、民主主義や人権、法の支配といった観点で価値観を共有できる国でグループをつくることが大切だと思います。「先進民主主義国クラブ」の結束とグローバルなルール形成力には価値があります。だからこそ「G9」は「D9」が望ましいと私は思います。

日韓関係が悪化している時期だけに、日本が韓国のG7入りを応援するのを快く思わない人も多いことでしょう。しかし、日本と韓国のガチンコの二国間協議だと意地の張り合いや国内世論への配慮でなかなか進まないことも、多国間の枠組みの中で議論すれば建設的解決策が見いだせるかもしれません。

たとえば、安倍政権のもとで2015年の日韓外相会談で「日韓間の慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決することを確認する」と合意しました。しかし、その後、韓国側が合意を履行せず、国際約束が反故にされました。こういった事態を避けるには、日本以外の第三国に「保証人」的な立場から関与してもらう、多国間の枠組みが有益だと思います。

日本人も韓国人もメンタリティが似ていて、第三者がどう見るかを気にする国民性なので、第三国が関与した方が大人の関係を築ける気がします。客観的に見たら、日本と韓国は儒教文化の影響を強く受け、中国文明の周辺部でユニークな文化を形成し、戦後は米国占領下におかれて市場経済と民主政において米国の大きな影響を受け、似ているところがたくさんあります。文化的にも地理的にも人種的にも隔たったアフガニスタンやメキシコ、タンザニア等と比べれば、多くの日本人にとってソウルやプサンは居心地がよいと思います。しかし、隣国であるがゆえに近親憎悪的な感情がわきやすく、だからこそ第三国が関与する多国間の枠組みの方が問題解決がスムーズかもしれません。

G9という枠組みができれば、日韓の首脳、プラス、主要国の首脳が毎年一度集まっていろんな課題を議論できます。そのなかで他国の首脳が日韓関係の悪化を防ぐための助け舟を出してくれるかもしれません。とにかく日韓の首脳が毎年必ず会う場が増えるのはよいことです。

また、韓国が中国の完全な影響圏に入ってしまうと、日本の安全保障上も問題です。米国やオーストラリアと協力しながら、日韓関係を良好に保つことが、アジア太平洋の平和と安定のためにも重要です。日本も韓国も自国一国だけで、巨大な隣人の中国と対峙するのは困難です。域外の多くの国を関与させる多国間の枠組みづくりは、日本と韓国のために重要だと思います。

また、いまのG7はヨーロッパ(英、仏、独、伊)に少し偏っていますが、アジア太平洋の韓国とオーストラリアが加われば、よりグローバルな影響力を持てるでしょう。地球的規模の課題(気候変動、感染症、テロ、海洋汚染等)でG9が結束すれば、大きな役割を果たすことができます。

そのためにも日本の首相が「韓国とオーストラリアをG7に加えるべき」と主張すべきです。韓国は隣国であり、敵対的な隣国ができるのは日本の国益に反します。「ヘイト本」みたいな視野狭窄な発想では、日本の安全は守れません。外交は好き嫌いでやってはダメで、必要性が最優先です。日本の国益を守るために韓国を味方につけ、友好関係を強化すべきです。そのためにG9(またはD9)が役立つと思います。

そのG9を提案するタイミングは米国の政権交代後がよいと思います。トランプ大統領のもとで先進民主主義国が結束を固めることはできません。しかし、民主党のバイデン候補は、米国の同盟国との連携を重視すると宣言しており、気候変動や民主主義、人権、法の支配といった価値観を共有する枠組みづくりをリードできるでしょう。トランプのG11は無視して、バイデン大統領になってからG9をめざすのがよいと思います。