2019年に読んだ本のベスト10

2019年もいろいろありました。今年も1年いろんな方にいろんな形でお世話になり、ありがとうございました。2019年は統一地方選、参院選とあって選挙イヤーでもありました。業務の上では可もなく不可もなく、大成功も大失敗もなく、たんたんと地道に仕事をしました。国対委員長代理は忙しくて目立つポストだったのに対し、政調会長代理はメディアに注目されることも少なく地味な裏方仕事が中心でした。しかし、政調会長代理というポストは、国対畑でずっとやってきた私が珍しく希望して移ったポストでもあり、とても勉強になりました。来年はどんなポストに就くのやら。

さて、毎年恒例の「その年に読んだ本のベスト10」企画です。今年読んで良かった本をご紹介させていただきます。

1.ジョン・ルイス・ギャディス 2018年 『大戦略論』 早川書房

ピュリッツアー賞受賞の歴史学者がエール大学で教えている「大戦略論(Grand Strategy Program)」の講義をふまえた本です。ギリシア・ローマ戦争、南北戦争、第二次世界大戦などを素材にリーダーの「キツネ型」と「ハリネズミ型」の視点を比較します。読み物としてもおもしろく、世界史のおさらいにも役立ちます。

ジョン・ルイス・ギャディス「大戦略論」【書評】
長かった10日間の連休も終わりました。連休といってもイベントや地元活動もあり、全部休んだわけではありませんが、少し時間があったので、久しぶりに趣味の書評です。 学生時代に「政策過程論」という授業でイエール大学歴史学者のジョン・ルイス...

 

2.ジャレド・ダイアモンド 2019年 『危機と人類』 日本経済新聞出版社

私の大好きなジャレド・ダイアモンド氏の新刊です。読みやすくておもしろいです。アメリカ、フィンランド、日本、ドイツなどの各国が国家の危機にどのように対応してきたか、そして危機に対処するための心がまえを論じます。特にフィンランドの事例が感銘を受けました。

フィンランドはすごい:外交も安全保障も
フィンランドといえば、学力世界一の教育、ノキアに代表されるハイテク、ムーミン、おしゃれな食器や家具といった印象が一般的ではないでしょうか。そしてつい最近は34歳の若い女性首相が誕生してニュースになりました。 フィンランドの女性首相は...

 

3.山下祐介 2018年 『都市の正義が地方を壊す』 PHP新書

現政権の「地方創生」に典型的に見られるような「選択と集中」という発想は、選択されなかった地域を切り捨てる発想です。安倍政権と霞が関がふりかざす「都市の正義」が地方を壊していることがこの本を読むとよくわかります。気づかなかった視点をいろいろと教えられ考えさせられる本でした。

「選択と集中」による「切り捨て」
山下祐介准教授(首都大学東京)の「地方消滅の罠」は考えさせられる本でした。山下先生は「限界集落の真実」という本も書かれていて、その本がおもしろかったので、「地方消滅の罠」も読んでみることにしました。 *ご紹介する本:山下祐介、201...

 

4.ヤシャ・モンク 2019年 『民主主義を救え』 岩波書店

世界で広がるポピュリズム政治に警鐘を鳴らすだけにとどまらず、民主主義を救う方法を論じた本。世界と日本で起きていることを整理して理解し、問題への解決策を考える良書だと思います。畏友の吉田徹教授(北海道大学)の翻訳です。

「ヒトラーの時代」とポピュリズムの台頭
私は同時に2~3冊の本を並行して読む癖があります。あきっぽいのが理由のひとつで、同じ本を長時間続けて読めません。ひとつの本を3~5分読んだら、別の本を読むのが習慣です。それと持ち運びを考えると、本のサイズも重要です。地下鉄の中で立っ...

 

5.朝比奈なを 2019年 『ルポ 教育困難校』 朝日新書

教育困難校の実態を描くルポルタージュ。高校教育でもっと力を入れるべきは、教育困難校とそこに通う生徒たちへのサポートだと思います。知らなかったことがたくさんあって勉強不足を実感させられる良い本でした。

最近(12月28日)地元テレビ局FBS制作の立花高校を3年間追いかけたドキュメンタリー番組を見ました。立花高校は、不登校、障がい、親による虐待、LGBTなど様々な困難を抱える生徒に居場所をつくり、真摯に教育するすばらしい学校だと感動しました。校長先生や先生たちのがんばりとやさしさが心にしみる良い番組でした。地元福岡にも困難を抱える高校生のための学校があることを知り、勉強になりました。

「ルポ 教育困難校」を読んで【書評】
元公立高校教員の朝比奈なを著「ルポ 教育困難校」(朝日新書)は、自分の無知さや認識不足を教えてくれる良書でした。教育政策を大学院で専攻し、教育のことを多少わかった気でおりましたが、思ってた以上にわかっていなかったと実感しました。 わ...

 

6.河田惠昭 2016年 『日本水没』 朝日新書

今年は水害の多い年でした。気候変動の結果として水害の激甚化が「あたり前」になっていることを、この本は教えてくれます。この本を読んだ友人は水害被害にあった場所を見たあとに「予言の書」だと評しました。地震に比べると水害への備えはおくれています。地方自治体関係者や政治家は読むべき本だと思います。

地球温暖化による災害激甚化:河田惠昭著「日本水没」
今回の台風19号の被害はけた外れのひどさでした。被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。堤防がこんなに多くの場所で同時に決壊するニュースを見たのは初めてです。都市部でも農村部でも大きな被害が出ていて他人事ではありません。 地球温...

 

7.トム・ニコルズ 2019年 『専門知は、もういらないのか』 みすず書房

最近私が気になっているテーマは「ポピュリズム政治をどう食い止めるのか」というテーマです。悪い意味のポピュリズム政治は、たいてい反知性主義の政治です。トランプしかり、大阪の地域政党しかり。「専門知」を重視するだけではテクノクラート政治に陥ります。しかし、政治家(議会)と専門知を持つ官僚制や専門家集団が、緊張感のある協力関係を築くことは民主主義を機能させるための必要条件です。やはり「専門知は必要だ」ということを改めて考えさせられました。

専門知の死:無知礼賛と民主主義【書評】
専門知と民主主義の関係は、政治学の重要なテーマです。世界で広がるポピュリズムや反知性主義の動きを見ると、きわめて現代的なテーマです。トム・ニコルズ著「専門知は、もういらないのか:無知礼賛と民主主義」という本を読んで考えさせられました...

 

8.エステル・デュフロ 2017年 『貧困と闘う知』 みすず書房

今年のノーベル経済学賞を受賞したエステル・デュフロ教授の本ですが、発展途上国への開発協力にたずさわる人には興味深い本だと思います。常識をくつがえしたり、常識を裏付けたりと、ランダム化実験に基づく実証研究の結果をわかりやすく解説した開発経済学の本です。こういう本が学生時代にあったらよかったのに、と思わされる本でした。

ノーベル経済学者がクオータ制を研究すると
今年(2019年)のノーベル経済学賞は、フランス人のMIT教授のエステル・デュフロ(英語読みだと“エスター・デュフロ”です)女史が受賞しました。ノーベル経済学賞の受賞者は、白人男性が圧倒的に多く、女性の受賞者は彼女でたぶん2人目です...

 

9.西田公昭 2019年 『なぜ、人は操られ支配されるのか』 さくら舎

これもポピュリズム政治を考える材料として読んだ本です。ヒトラーの一本調子の演説に熱狂する群衆は、どうみても集団的なマインドコントロールです。冷静に考えれば、すべての問題が少数のユダヤ人のせいで発生するわけがありません。複雑な問題にシンプルな解決策はありません。複雑さから逃げず、安易な解決策に飛びつかない。それがポピュリズム政治家にだまされないための予防策になると思います。

マインド・コントロール予防にお薦めの本
ポピュリズム政治の極端な例は、ヒトラーのナチスドイツだと思います。大衆的な熱狂というのは、ある意味で大衆的なマインド・コントロールです。ポピュリズム政治を理解するには、マインド・コントロールを理解することが大切だと思います。そこでマ...

 

10.井手英策編 2019年 『リベラルは死なない』 朝日新書

謙虚なので(?)、10番目にご紹介させていただきます。慶応大学の井手英策教授といっしょに企画して出版にこぎつけた新書です。ほとんど井手先生のご尽力のたまものですが、言いだしたのはいちおう私です。立憲民主党と国民民主党の中堅若手議員の数名で勉強会を開き、雇用、障がい者支援、税制、地方自治などのさまざまな分野の政策を提言した政策集です。いわば有志でつくった「将来の政権構想」のようなものです。私は第2章の教育政策を担当しました。大きな書店ならまだ置いてあると思いますので、よろしかったらご一読いただければさいわいです。

*ご参考:

朝日新聞出版 最新刊行物:新書:リベラルは死なない
「貯蓄による自己責任」か「税による痛みの分かち合い」か。選挙のたびにリベラルは劣勢を余儀なくされる。社会的弱者への配慮や人権の重要性を訴えれば訴えるほどそっぽを...

最後までお読みいただきありがとうございました。良いお年をお迎えください。